からあげ

母のからあげが大好きだった

不器用で料理は下手くそだったが、からあげだけは美味しかった

そんな母は5年前に他界した

どうしてもあのからあげが食べたくなった

僕はタイムマシンに乗った

理由はわからなかったが僕が学校から帰ると泣くことのなかった母が泣いてた日

あの日もからあげだった

その日に戻ろう

僕はそのときまだ小学生だった

母は台所に立っていた

小学生の僕はまだ学校から帰ってきていないみたいだ

母さん

久しぶりに名前を呼んだ

急に大きくなった僕を見ても母は驚かなかった

理由を聞くとあなたのお母さんだからと笑っていた

母のからあげが大好きだったことを伝えると

申し訳なさそうに

あれは冷凍食品だったの

と言った

そんなこと知ってたよ

僕は笑った

そう、知ってたのだ、

小学生の頃からわかっていた

コンビニで買ってくれからあげが美味しかったと言ったら

作ってあげると

僕が寝てから夜な夜な練習してたことも知ってた

その結果、火事で家が全焼したこと

父が出て行ったこと

急に貧乏になったけど

それでもどうしても食べさせたいとスーパーで安売りしてた冷凍食品のからあげを買っていたこと

全部知ってた

大人になってから自分でその冷凍食品のからあげ買って食べたんだ

もちろんお店でも食べるけど

やっぱり母さんの作ったからあげが1番美味しい

と言うと

レンジかけるだよと笑った

僕は姿勢を正した

どうしたのと聞く母に

ひとつだけ、報告があると伝えた

母さん、僕、

明日結婚するんだ

これが本題だった

僕の時代にタイムマシンが開発されたが一回のタイムスリップはとんでもなくお金がかかった

そんな中、結婚の報告をしてこいと

彼女、彼女の家族、友達がお金を出し合って僕をタイムスリップさせてくれたのだった

僕はとても周りの人に恵まれた

母さん、僕を産んでくれてありがとう

ここまで育ててくれてありがとう

僕はいまとても幸せだよ

と伝えると

それは良かったと言った母はすこし涙ぐんでいた

どんな子と結婚するんだと

母は聞いた

母さんみたいな人だよ

と僕は笑った

おわり